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Message from HARA-TETSUO
【2001年3月】 【▲メッセージ目次へ】


 人は無意識のうちに、自分が目指すもの、自分が欲しいものに向かっていくが、それを得るためには必ず何かを失っている。何でも同じだと思うのですが、人はそうやって摩耗していかないことには、何も得られない――。自分の漫画を多くの人々に読んでもらおうとすれば、いい絵を描くために自分の時間を費やし、ギリギリまで粘り、作品の面白さを深く追求しながらつくっていかなければならないわけです。あっさりと適当に漫画を描いて大ヒットを飛ばす…、そういうことってあり得ないと思うんですよ。僕も偉そうなことは言えないんですが、今の日本の漫画はそうした粘りや追求がなくなってきている気がします。

 先月、韓国の出版事情の視察とサイン会のためにソウルに行ってきたんですが、韓国の漫画家さんの絵って、ペンにすごく魂が入ってる。なにかこう、強烈なこだわりをもって描き込んでいるんですね。日本の漫画が忘れかけているそうした漫画への情熱が、韓国の漫画にはあるんです。まさに消えかけた漫画の火種を韓国で見つけた感じがして、嬉しかった反面、「僕たちもうかうかしてられないな!」という気持ちになりました。

あえて韓国の漫画界の足りないものを挙げるなら、漫画編集者が不在というところでしょうか。韓国の編集者は編集作業能力は非常に高いんですが、作品の内容は漫画家にお任せするのが普通のようです。だからどうしても同人誌をつくっている感じがあるんですよ。絵的には結構高いレベルまで達しているんで、もし漫画家の能力を引き出して作品づくりにまで深く関わってくる、ある意味プロデューサー的な漫画編集者が出てくれば…。そう考えると、僕たちもどんどん質の高い漫画をつくっていかないと先がないというか、気合入れて頑張らないといけない。

 そういう意味でも、5月から始まる新連載はかなり気合を入れていますね。すでに1話目と2話目のネームを書き上げているんですが、いい出来になりそうです。なんと言っても、あのCoamix社長で編集長の堀江さんがちゃんと見てくれているんで、それだけでもいままでとは随分と違う。いろいろ資料を調べたり、文献を探したりと大変ですが、みなさんを「そうきたか!」と唸らせるような作品にしたいと思っているので、ぜひとも楽しみにしていてほしいです。

 僕だけでなく他の作家さんの作品も、編集者が大勢で知恵を出し合ってネームを3回、4回と練り上げているんで、高いレベルに達した作品が何本も出来てきている。Coamixの『週刊コミックバンチ』編集部は、そうやってひっきりなしに漫画家が集まり、大勢の編集者たちと作品を練っているんです。僕も自分以外の作品を間近に見ることができて、刺激を受けるというか、すごく高揚感を感じてきますね。僕自身の力は限度があってこれまでと変わらないんですが、そこに仲間たちの力が加わると、明らかに質は高くなってくる。コアミックスに集まる優秀な人々が、栄養を一杯与えてくれて、それが刺激にもなって作品のグレードをどんどん上げていけるなって気がします。

ひとりの担当編集者がついて、ひとりで漫画を描くという狭い世界から、作家や編集者が集まって手抜きのない良質な漫画をつくっていける環境になんとかたどり着いたわけですが、いずれは韓国や香港、台湾の漫画家たちと国境を超えて一緒に互いを刺激しながら仕事できる環境を整え、ハリウッドも無視できないような大きなうねりをアジアで巻き起こしていきたいですね。こうした大きな高揚感を感じながら仕事するのは、「北斗の拳」の頃以来です。これまでずーっと「北斗」から抜け出られないでもがいていましたが、今は、ようやく燃えられる時期がきたと心の底から実感しています。

 2001年 3月 原 哲夫

 
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